Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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MELBOURNE Street by Street (29)

Flinders Street   ―  その 4  ―    

ケン・オハラ 

Young and Jackson's hotel を後に、Flinders Street を西に向かって歩いていくと、道の両側にある興味深い場所にさしかかる。

向かい側にあるのは19世紀に建設された立派な駅、Flinders Street railway station である。こちら側の 224 Flinders Streetは同じく19世紀に建てられた3階建ての建物だが、薄暗い路地に橋渡しするような格好に建てられている。

1856年のこと。路地のオーナーは、224 Flinders Street のオーナーに、この建設許可を与えた。条件は馬と馬車が通れるだけの高さ、10フィートのスペースを残しておくことというものであった。

現在ではどこの誰がこの路地のオーナーであったのか不明である。しかし 224 Flinders Street の登記権利書には路地の上に建物を建ててもよい、という許可文が明記されている。メルボルンの路地には表道の広い道路にはない面白い歴史が多い。

次にあるのは Port Phillip Arcade. オーナーは香港の投資家である。彼らもメルボルンの路地に興味があるようだ。

彼らは昨年、後ろにある Flinders Lane にアクセスするために、路地を使用する権利を$45,000払って買い取った。この路地は Port Phillip Arcade から Flinders Lane にアクセスする路地ではなく、西寄りの次の路地のことである。

これらの路地は19世紀に作られたものである。当時のメルボルン中心街の不動産のオーナーは、土地を小さく分割して売りさばくことにより大きな利益を得ていた。土地を分割した際に、裏側の新しい土地のオーナーが道路にアクセスするために、裏に路地をつくる必要があり、路地の権利は旧地主が保有した。

路地には不動産としての価値はほとんどない。なぜならまわりのすべての不動産の新しいオーナーは、路地にアクセスする権利を持つので、旧オーナーは路地を勝手にどうこうすることはできない。無価値なのである。ゆえにほとんどの子孫たちは、路地の権利などには無関心で忘れてしまう。

しかし、中には忘れない者もいる。19世紀後半、ロンドンの Howey 一族は Collins Street と Little Collins Street の間にある Swanston Street の西側の一画のほとんどの土地を所有していた。現在この一画には、Manchester Unity Building, Capitol House, Sportsgirl Centre, Australia on Collins, Novotel Hotel とその他のビルが建っている。

Sportsgirl Centre の後ろは Howey Place である。ファッショナブルなショッピングの魅力ある路地となっている。しかし地価としての価値はない。まわりにあるすべての建物がアクセスの権利を保有しているから。

1985年にHowey 一族はこの路地を、1平方メートル$1.19で Sportsgirl Centre のオーナーに売却した。

ほとんどの子や孫は路地の権利のことなど忘れてしまい、誰かの祖祖父の名前が、登記簿に残っているだけで、たいていの場合、市が所有し管理している。

もし不動産開発業者が路地の周りの全ての土地を購入した場合、他のものにはアクセスの権利はない。したがって市は路地を閉じて、開発業者に路地の権利を売却する。

1988年、333 Collins Street のディベロッパーは、路地を購入する為に、市に対して $3,843,000 を支払った。1平方メートル$14,500の値段であった。

数年前、ケン・オハラはこのコラムで、333 Collins Street の開発はメルボルンで最大の 経済的損失を出した、と書いたが、その額は $300 million であった。

しかしこの記録は後に、熊谷組によって更新された。旧大丸のあった Melbourne Central は1999年に $408 million で売却されたが、その損失は $800 million 以上ということである。

Melbourne Central での開発では、他のどこよりも多くの路地を吸収し消してしまった。路地を吸収して消してしまうのは、不運をまねくのかもしれない。


copyright: Ken O'Hara
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