Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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MELBOURNE Street by Street (19)

Lonsdale Street   ―  その 4  ―    

ケン・オハラ 

Lonsdale Street を歩いて来て、Queen Street  を横切った所で、ケン・オハラは歴史や文学、法律、そして Torrens Title (土地所有登記権)に思いを巡らしている。

世界最良といわれる土地登記システムが Sir Robert Torrens によって南オーストラリアに取り入れられたのは、今から約150年前のことであった。

この Torrens Title と呼ばれるオーストラリアの土地登記システムは、現在、ヨーロッパ、カナダ、アメリカの一部、シンガポールなど、多くの国で採用されている。また現在ロシアでは、新しく土地所有登記システムを設置するにあたって、オーストラリア人のチームがその作成に手をかしている。

Torrens Title では、Land Titles Office (土地権利登記所)の記録が所有者の所有権を証明することになっている。また、どの土地を誰が所有しているかを簡単に調べることもできる。メルボルンの登記所には台帳があって、(例えば Volume 1234, Page 567 の Lot 1 plan (図面)123456 とある。)その土地を誰が所有しているか記されている。オーナーが変われば、Title の名前は変わるが、Title の番号は、区画整理でもない限り変わることがない。台帳の Title にオーナーの名前が記されている限り、所有権は政府によって保証されている。

ところがアメリカの一部の地域のように、土地の所有権は登記証書によって証明されているところもある。このシステムでは、登記証書を紛失したら、土地の所有権を失う場合もありうる。そのため、アメリカでは土地所有権に保険が必要となる。万が一、誰かが古い登記証書を掲げて、所有権を主張しないとも限らないからだ。

オーストラリアでも Torrens Title が採用される以前の古いシステムのままの土地所有者が一部に存在する。この古いシステムで土地の所有権を証明するためには、150年前にさかのぼるオリジナルの登記証書をさがしだし、その後の150年間の台帳をチェックして、いかなる変化も生じていないことを確かめねばならない。

120年前、ビクトリア州がまだできたての若かりし頃、州政府は Queen Street  とLonsdale Street との角にLand Titles Office を建てた。

30年前、ケン・オハラがまだ若かりし頃、Land Titles Office で情報を収集しているうちに、彼はメルボルン市の建物に関する知識を積みたてた。

現在、Land Titles Office は移転し、台帳も図面もコンピューターに収納されしまった。

しかし30年前まで、台帳には100年以上も前に手書きされたものもあった。

ケン・オハラは、100年前、うす暗い Victorian Land Titles Office で机に向かい、ガスランプの明かりをたよりに、羽ペンを使って書類に書き入れをしている事務員の姿を想像してみる。まるで陰鬱なロンドンを舞台にしたチャールズ・ディケンズの小説の世界のようではないか。この辺で外に出て陽光の下をあるくとしよう。

さてここで Lonsdale Street を西に向かうと、左側に壮麗な歴史的建物、州最高裁判所がある。この古めかしい大建築物は、カフカの「審判」やディケンズが描写するところの終わりなき裁判の一件を連想させるので、ケン・オハラは急いで通り過ぎることにする。

オーストラリアの法律は英国式を模倣したもので、lawyers は barristers(裁判の時に弁論する)と   solicitors(裁判の時に弁論しない)に分かれている。

ここの界隈はメルボルンの司法界の中心と言えるところだ。ガウンを羽織ってかつらを付けた barrister たちを時々見かけるのもこの辺りだ。The barrister's association が運営する Bar Council は、このいでたちで通りを歩くことを、裁判所と弁護士事務所の限られた間でのみ許可している。

William Street まで来ると、西南の角に旧 County Court がある。この建物は1969年に建設されたが、1985年には正面のタイルの一部がはがれて落ち始めた。修理の為のやぐらが組まれた。しかし、資金不足であった。やぐらは10年以上もそのまま据え置かれた。1995年に修理が終わり、やぐらが取り除かれた時は、ケン・オハラはなぜか失望を感じてしまった。

隣の 525 Lonsdale Street は、Owen Dixon Chambers West である。約550人のbarristers の弁護士事務所として使われている。

1984年、barristers はビルを建て替えようとして、建設業者と非常に損な取引をした。ビルの建設費を払わずに、向こう40年間だけディベロッパーにビルの所有権を譲り、その間ディベロッパーはbarristers からレントを徴収する、というものであった。だがこの時同意したレントは高すぎた。1995年、建物の市価が$45million の時に、barristers はレント代を含めて$2.5million でディベロッパーに譲渡してしまった。軒を貸すつもりで母屋を取られてしまったのである。

Victorian Bar Council は、 barristers はBar Council から弁護士事務所を借りる、というルールを設けている。しかし抜け道もある。一部の barristers は、ルールを侵さずに自分たちが望むビルを借りるために、複雑な手順をとっている。Seabrook Chambers の barristers は、573 Lonsdale Street の歴史的な建物を購入し、そのビルを Bar Council へ貸し、Bar Council がビル内に事務室を設置して、彼らに貸す、という具合である。

この建物は何十年もの間、ワイン商人たちが倉庫にしていたのを改造したもので、Seabrook Chamber の雰囲気は、イギリスの有名な法廷テレビ番組、Rumpole に似たものがある。 

copyright: Ken O'Hara
*この記事及び写真の無断転載、借用を禁じます。
*この記事は2003年のものを再掲載しています。

     

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