Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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MELBOURNE Street by Street (6)
 
Collins Street   ―  その 6 ― 
ケン・オハラ 
建物を見ながら Collins Street を通って Queen Street を渡る所まで来た。このブ ロックには歴史的な建物が多いが、その中で二つの建物を取り上げてみたい。こ の二つは建物としてだけでなく、1893年の メルボルンの経済恐慌を生き延びた会社が建設したという、経済的に興味深い歴史がある。

まずはじめに 394~398 Collins Street。1870 年当時、多くの銀行がメルボルンに豪華な本店を構えていた。the Bank of Australasia もそれに習い、1878年にここに本店を建設した。

1891年当時のメルボルンには「銀行」と称する会社が64もあった。その2年後 に、54が休業、その内の34が潰れた。その中で the Bank of Australasia は生き残った銀行の一つである(現在の The ANZ)。

The ANZ は1979年にこのビルディングをスコットランドの保険会社に売却した。 その後再び所有者が変わり、改造されてSebel of Melbourne Hotel となった。 その各部屋は、それぞれ別個に不動産投資者に売却された。

次は向かい側の 389~399 Collins Street, National Mutual Life 。この豪壮なオフィスビルディングは1893年の経済恐慌直前に完成した。恐慌の 嵐をやり過ごし、その後の100年を無事に生き延びた。

そして1981年、National Mutual は同じく1893年の恐慌を生き延びてきた会社 TEA (Trustees Executors and Agency) にこのビルディングを売却した。

 TEAは1878年、オーストラリアで最初に設立された信託会社であり、しかも最初に破綻した信託会社でもある。 設立当時は、その業務を合法とするために法律が改正されねばならなかった。

TEAはその後の100年、堅実に業務をおこなってきた。ところが1980年、突然危ない橋を渡り始めた。 リスクを伴う不動産に手を出し、投資を始めたのである。3年後、会社は倒産した。 主な原因は399 Collins Street (シンガポールの会社がオーナーでBank of New Zealand が使っている )のビルディングの改築に投資をしすぎたためではないかといわれている。

473~485 Collins Street, the Olderfleet complex(左) も TEAが所有していた。 古典的な三つのビルディングの正面の部分は見事に修復保存され、その後部にオフィス、 駐車用ビルが建っている。ここはTEA が破綻する前にすでに売買契約が交わされていた 。完成と同時にバイヤーに譲渡されることになっていたのである。ところがバイヤーの 会社も時を同じくして破綻してしまった。建設会社 the Becton Construction Group は ここのオーナーとなることを余儀なくされ、シンガポールの会社が買い取ってくれるま で、10年間も売却を待たねばならならなかった。

かつてメルボルンは世界有数の富める都市であった。1880年代のその名残をとどめる建物は ? ときかれたら、ここCollins Street の北側に立って Olderfleet と Le Meridien Hotel(右下)を指すだろう。

Le Meridien Hotel の修復保存工事は、隣接する Rialto ビルディングの開発建設の一部 として同時に行われた。1986年に完成したRialto ビルディングはメルボルンの最高層ビ ルで、展望台からの眺めは一見に値する。

Rialtoビルディングと Le Meridien Hotel は Grollo brothers と St Martins Property Groupが半々のオーナーである。 St Martins はイギリスの古い会社で現在はクエート政 府がオーナーとなっている。 Grollo brothers は、イタリア系のオーストラリア人家族 で、不動産開発で財を成した富豪である。 Rialtoビル開発の際、納税額が不足だとする 税務署と法廷で争い、言い分を通した。時々ニュースの種になったので、テレビで見た 人もいることだろう。スーパーマリオそっくりの大きな口ひげをたくわえた人物である。

      

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