Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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7 日常的慣用句と用語

Australian salute                   スピアーズ洋子

オーストラリアの夏は、太陽の季節であると同時にハエの季節でもあります。道を歩いている時、ゴルフやテニスなどスポーツをしている時に、うるさくまといついてきます。テレビニュース等の報道番組でもインタビューされている人が、顔のハエを手で振り払っている様子が映し出されているのを見ると、「オーストラリアの夏だなー」という感じがします。
 この手で顔のハエを振り払うしぐさを、いつの頃からかオーストラリア人はジョークにヒニクをまじえて、Australian saluteと呼ぶようになりました。
 道を歩いていて、前方に見える人がしきりに手を振りながら歩いてくるので、事情を知らない人は、自分に手を振って、挨拶か何かの合図を送っているのかと勘違いする場合もあるようですが、これは単にハエを追い払っている Australian salute にすぎません。気が付けば自分も同じしぐさをしています。
 このハエは乾燥した大陸の夏に、水分を求めて動物や人間にまといついてきます。ハエが多い割りには、ハエが媒体する病気などが少ないのは、空気が乾燥しているからといわれています。夏の太陽の下では、地面に落とされた動物の糞なども、ばい菌が繁殖する前にからからに乾いていきます。だからといって、ハエが無害だというわけではありませんし、何よりもうるさくしつこいのはかないません。
 土産店などにあるスワグマンの人形がかぶっている帽子のつばにぶら下がっているのは、ハエよけのためのものです。始終 Australian salute をしていたのでは手の方も疲れてしまいます。女性には昔の貴婦人がかぶったボンネットのような帽子を復活させるのも一対策かもしれません。Tシャツとショーツに似合うボンネットが売り出されたら流行るのではないかと思います。

She’ll be right. または  She’ll be apples.

She’ll be right.または She’ll be apples.  は、大丈夫、上手くいく、心配無用という意味で、日常会話でよく使われています。

大丈夫かな、あれで上手くいくのかしら、と思っている時に誰かが She’ll be right. というと安心する、ということがあります。期限のある仕事が、期日までに済むかしら、という不安がある場合、She’ll be right. といえば、大丈夫、きちんとやるから心配しないで、という意味になります。しかし、これがなかなかその通りにならないのがオーストラリアの常識みたいなところがあって、言った本人も自分の言葉にあまり責任を感じていないふしがあるように思えます。No worries. She’ll be right. といわれて、うっかりそのつもりでいると、後で後悔することになったりします。She’ll be right. は言った本人の希望的観測、くらいに受け取っておくと間違いがないでしょう。

 She’ll be right. とまったく同じ意味で、right の代わりに apples を使い、 She’ll be apples とも言います。


Bring a plate と cut lunch

Bring a plate は一品持ち寄りのことです。子供の学校関係のあつまり、または近所となりの集り、などでよく使われます。お知らせまたは案内状の、日時、場所の直ぐ下、または一番終わりに、bring a plate 書かれていたら、一品を持参しなければなりません。

最初、何のことか理解できなくて、たぶんお皿が足りないのだろうと想像し、お皿を一枚持っていく人は少なくないようです。海外から来たばかりの人が一度はする失敗のようです。学校関係の子供の集まりなどで、bring a plate の意味がわからず、子供に空のお皿を一枚持たせて行かせ、半べそ、またはふくれっ面で帰ってきた子供に、文句を言われたお母さんはたくさんいるようです。

この bring a plate は、大人の会合やパーティでもホスト側の料理の負担が少ないので便利ですが、あくまでも便宜上のことなので、明記していない場合は持参すべきではありません。Bring a plate とあったら、何を持参したらよいか、前もって確かめておくのが無難です。

もうひとつ、知らない者には意味不明なのが  cut lunch です。「次の集りは cut lunchにしましょう」といわれて、その集まりには、たまたま太ったオーストラリア人が多かったので、お昼を抜くことだとかん違いした人の話を聞きました。Cut lunch とはサンドウッチの昼食のことです。

Snags on the barbie

Snags on the barbie この意味、おわかりになりますか? 
もしおわかりでしたら、あなたのオーストラリア英語の理解度は、かなりの線をいっているといえるでしょう。加えて独特のイントネーション、肌をこがす陽射し、肉と脂の焦げる匂い、ハエの羽音、Tシャツにショーツ、ソングをつっかけて缶ビール片手のオージーの姿も同時に浮かんできたら、あなたのオーストラリア在住歴はかなり長い証になります。

そう barbie は オーストラリアの夏の風物詩ともいえるbarbecue (バーベキュー)のことです。めんどうくさがり屋のオーストラリア人は、唇や舌を小刻みに動かすのをおっくうがって、言葉を短く縮めてしまいます。Barbie もそのひとつ、barby とも書きます。

メルボルンカップが始まる前の10月の末あたりから、冬の間、納屋や車庫の片隅で埃をかぶっていたバーベキューセットが運び出されて、きれいに掃除されて、動かしやすい場所に配置変えされます。いつでも使えるように庭の隅に、レンガなどのバーベキューセットを常設している家もかなりあります。そのくらいバーベキューはオーストラリア人家庭では欠かせないもののひとつとなっています。

そしてオーストラリアのバーベキューで欠かせないものは、snags こと sausage (ソーセージ)です。Sausage がなぜ snags になるのか、理由はわかりませんが、たぶんこれも短縮のひとつなのでしょう。

最近はバーベキューも洗練されてきて、バーベキュー・パーティで、えびなどのシーフード、お肉もアジアや中近東のスパイスにつけ込んで、カバブやサテ、タンドーリ風にする人が増えてきました。けれど、生粋のオージーにいわせると、そういうのは邪道で、やっぱりバーベキューは snags on the barbie でなければならぬ、ということです。

Two chops short for a barbie

Two sandwiches short of a picnic

雨模様の曇り空が続く冬はとかく屋内にこもりがちですが、春になると待ってましたとばかり、人々は外に出て、パーティも裏庭や公園で、ということになります。春からバーベーキューのシーズンが始まります。近頃のバーベーキューはなかなか洗練されてきて、シーフードや焼き鳥風、カバブ風などいろいろとありますが、やはり本格派は、チョップス、ソーセージです。

Two chops short for a barbie は、足りない為に本来の意図したことができない、ということから転じて、役立たず、愚か者という意味になります。

Two sandwiches short of a picnic も、まったく同じような使われ方をします。

日本語でも、あいつはちょっと足りない、などという言い方がありますが、それをオーストラリア英語では、具体的な表現で婉曲に表した、とでもいったらいいのでしょうか。

Tucker

Tucker はオーストラリアンイングリッシュのスラングで、食べ物のことです。

由来はイギリスの男子校の生徒の間で使われた用語で、店で作られて学校に配達されてくるパイ類を tuck と呼び、食べることを to tuck inといったことからきているようです。現在でもオーストラリアの学校では食べ物を扱う売店を tuck shop と言っています。

Tuck という言葉は1800年代の中頃、オーストラリアで使われるようになってからはその意味が広がり、食べ物一般に使われるようになりました。また bush や outback でも独特な使われ方をするようになりました。例えば to make tucker は食い扶持を稼ぐ、の意味。Bush tucker はブッシュでみつかる食用になるもの。Tucker bag, tucker box は swagman が食べ物を入れた袋や箱のこと。

Tucker box といえば、オーストラリアでよく知られている Five miles from Gundagai という歌があります。

メルボルンとシドニーの中ほどにある Hume Highway 沿いのGundagai という町にThe dog on the tucker box として知られる犬と箱の像が建っています。この像を初めて見たとき渋谷の忠犬ハチ公を思い出しました。帰らぬ主人のために tucker box を守るけなげな犬を勝手に想像したのでした。ところが歌詞をよく読んでみると、この犬は全く反対なのです。

100年以上も昔のこと。開拓者のなかには、雄牛たちに荷車を引かせて、木材やレンガを内陸部に運ぶ仕事をする人たちがいました。Five miles from Gundagai というのは、その人たちの嘆きを歌ったものです。

歌の一部を簡単に約してみると、「Gundagai から5マイル離れた森の中、わだちは泥沼にはまり込み、そのうち雨も降りだした。暗くなってもマッチも付かない。おまけに犬の奴が tucker box の上に糞をした。」という内容なのです。こんなことが歌いつがれて、犬の銅像まで建ってしまうなんて、と首をかしげてしまいます。


Pie

どの国にもお国柄を表す代表的な軽食があります。日本ならおにぎり、アメリカならハンバーガー、イギリスならフッシュ・アンド・チップスというように。さてオーストラリアは?となるとやはりミートパイでしょう。

オーストラリアン・フットボールのシーズン中、試合のある日は4万個以上のミートパイが、オージーたちの胃袋におさまるということです。冬の1日、熱いミートパイをぱくつきながら、ひいきのチームに声援をおくるのは、まさしくオージーライフといえるでしょう。

メルボルンでは Pies と頭文字を大文字にして複数にすると、パイはパイでも Collingwood チームのことになります。チームのユニフォームの色、白と黒から鳥の Magpie を連想して通称名 The Magpies、短くして Pies となります。Carna Pies! というビクトリア州の人たちにしか通じない英語は、Come on the Pies! の略で、つまりガンバレ Collingwood! という意味です。

ついでにその他のスラングをあげておきましょう。

Pie-eater は三流、取るに足らない、つまらない、という意味に使われます。Pie face は太った丸顔のことで、東洋人に対する軽蔑の意味にも使われます。

Easy as pie はとても簡単。

As nice as pie はとても良い。

Have a finger in the pie は興味を持つ、関わる、干渉する。

Pie in the sky は見込みのない約束ごと、絵空事。うまい話。

Cossies, Togs, Bathers

上のタイトルを読んですぐに水着のこと、と解かったらオーストラリア英語に慣れているといえるでしょう。日本語では水着、海水着、海水パンツくらいしか思いつかないのですが、オーストラリア英語では言い方がたくさんあります。Swimming suit, swimsuit, bathing suit, bathers, swimming trunks, trunks, swimming togs, togs, swimming costume, costume, cossies (cozzies と発音), swimmers.

これだけでも12あります。初めの二つは女性に水着。swimming trunks, swimming togs は海水パンツ。Bathers, Cossies, togs は短くしてあります。

言葉には暮らし方があらわれます。オーストラリア英語で水着の言い方がたくさんあるというのも、それだけ多くの人が水に親しんでいるということでしょう。オーストラリアではタスマニア、ビクトリア州、南オーストラリア州を除いて、半年以上は海で泳げること、プール付きの家の数の多さなど、泳ぐ機会が多いからでしょう。

Lay-by

デパートや家具屋さんなどで lay-by と大きく書き出してあるのを時々みかけます。Lay-by の意味は同じ英語圏でもイギリス、アメリカ、オーストラリアでそれぞれ違います。

まず辞書を引き比べてみると、アメリカでは蓄える、取っておく、不幸にそなえる、などの意味があります。イギリスでは道路で他の車の通過の邪魔にならないようにわきに寄せて駐車できる場所のこと。オーストラリアでは頭金を払って品物を受け取り、残りを後から払う支払い方のこと。いわゆる月賦払いのことです。

この lay-by システムは1930年の世界恐慌の頃から始ました。このころオーストラリアでは、日々の食料品を買うだけでも精一杯で、服などが買えるのはわずか一握りの人たちだけでした。町には失業者があふれ、赤十字などのチャリティで配るスープに長い行列ができました。デパートに買い物に来るお客さんの数も激減しました。それでなんとかお客さんに来てもらい、買い物をしてもらおうと考えだされたのがこの lay-by システムでした。まずは頭金を払ってもらい、残りは払える時、または分割で利息もつけないなど、条件はいろいろとありました。

シドニーのデパートが始めたこの lay-by は全国的に広がり、特に戦争中、女性にとても人気があった、ということです。

近年では1980年の半ば、不況を乗り切るために官、民間企業で激しい合理化が敢行され、失業率が12%になったことがありました。1930年代の不況が再現されるのか、とささやかれ暗いムードが社会を被っていました。この頃 lay-by の文字があちこちで目に付きました。最近でも lay-by を見かけることがありますが、これは必需品を買う為よりは、もっと買わせるための lay-by のようです。

Milk bar

どんな小さい村や町にもMilk bar が必ず1軒以上はあります。辞書を引いてみると牛乳やアイスクリームを売る店、と出ていますが、それよりはむしろ日本の雑貨屋さんの方が近いかもしれません。

Lay-by と同じく1930年代の世界恐慌の頃から使われ始めた言葉です。牛乳とパンといえば日本ではお米と味噌、醤油にあたる生活必需品ですが、1930年代ではそれさえも買えない人たちがたくさんいました。そのため余剰気味になった牛乳を、なんとか売りさばこうとしてできたのが milk bar だったということです。それまで牛乳はお菓子屋さんで売られていました。それが近所の milk bar で買えるようになって需要が伸びていきました。

牛乳だけを売る milk bar が最初に開店したのはシドニーの Pitt Streetだということです。この milk bar は大変繁盛したので、あちこちに milk bar ができました。初めは milk bar では牛乳だけを売っていましたが、そのうちにビスケットや缶詰などの保存のきく食品類や卵、石鹸などの日用品も売るようになりました。それにパン、新聞が加わり、現在の milk bar では日用品はほとんどなんでも揃っています。

それと milk bar の特徴は年中無休。1990年代に入る頃まで、オーストラリアでは milk bar 以外の商店は、土曜日は昼まで、日曜日は閉店でした。日曜日の朝、牛乳やパンがなかったり、洗剤が無くなっているのに気が付いたときは、近所の milk bar に行けば、スーパーよりは値段は少し高めですが買うことができました。Milk bar はローカルコミュニティにとって馴染みの頼りになる存在でした。

スーパーやデパートが土曜日、日曜日の開店を申請した時に、 milk bar の経営者たちが反対したのはもちろんですが、それを後援する地域の小さな市場を対象としたビジネスを守るべきだ、というローカルコミュニティの反対という声も強あがりました。しかし、デパートメントストアの週末開店が許可され、それにスーパーが続き、一部の小売店も開店するようになってきました。そうなってくると、やはり週末にお店が開いているのは、消費者にとっては便利なことです。

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