Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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日豪教育事情 (2)

どの国でも次の世代を担う子供たちの教育はとっても大切なことです。そして刻々と変化する社会、国際事情に伴い、教育は常に様々な問題をかかえています。今年から、日本とオーストラリアで現在教育にたずさわっていらっしゃる、または教育現場を経験された方々に、日豪交代でエッセイを書いていただいています。教育に何らかの関係があれば、ということでテーマもスタイルも自由。ただし抽象的な教育論ではなく、ご自身の経験を通して得られたものを、とお願いいたしました。地理的、歴史的、社会的にも対照的なことが多い日豪ですが教育面ではいかがでしょうか。


オーストラリアから

関口理恵

オーストラリアの教育事情という事で、本来なら生徒の事を一番初めに書くべきなのでしょうが、今は、教師にとって一番幸せな夏休み(学年末休み、12月中旬から翌年1月末迄。)で、かわいい生徒たちの顔もつかの間忘れていられる充電の時なので、今回は教師側の学校のシステムについてちょっと書こうと思います。

 オーストラリアで教員を始めて5年、すっかりこちらのシステムのほうが当たり前になっている今日この頃ですが、日本で10年以上教員をし、初めてオーストラリアの学校システムの中に入り、目を丸くするほどびっくりしたことは、

○1学年主任、教科主任、クラブ活動などの仕事に余分にお金や時間が貰える。

○2これらの仕事が立候補制(希望制)

○3それぞれの仕事に割り当てられた金額や時間が適当であるかどうか話し合う機会がある。

というようなことです。ただし、私はオ-ストラリアでほとんど1つの学校しか知らないので、他の学校は多少違うかも知れません。でもこれは日本の封建的ともいえる学校システムしか知らない私にとっては、まこと目からうろこが落ちる気分でした。

①について具体的に少し話すと、たとえば学年主任になると基本給に上乗せして手当が付く。そして教えなければいけない一週間の授業時間数が減らされる。つまり授業をしなくてもいい、空いている時間数が増える。教科主任も担任もクラブ活動の指導をしていても、それぞれ決められた金額や時間数が付きます。これは日本でも企業で考えると当たり前のことかも知れないが、こと

日本の学校システムにおいては、手当が付くのは校長と教頭くらいだったと思う。

 このシステムがとてもいいと思ったのは、やった人がお金を貰えるという点です。

クラブ活動で遅くまで残っていた人が、生徒指導に時間を費やした人がお金を貰える。もちろん現場では、そんなはした金では合わないなんて声もあるが、貰えないよりはいい。何でもお金というのは寂しい、と思う人があるかも知れないが、これは実は貰えない人にとってもいい事だと思う。なぜなら、事情があってやれない人や、やりたくない人も変な罪悪感を持たなくても済む。たとえば小さい子供がいてクラブ活動の顧問を引き受けられなくても、心苦しい思いをしなくて済む。

②のこれまた当たり前のことのようで、日本ではそうではなかったことが、こういう仕事は希望制だということだ。やりたい人が手を挙げてやる。学期末にはこんな仕事を是非したいという書類を提出して、一人ずつ校長面接がされるし、年度の途中で何かの事情で空きが出れば職員会などで「希望者はアピールポイントなどを書いていついつまでに提出すること。」と発表され、希望者には面接がある。時には新聞や機関紙などで他の学校からも募集する。これも私は非常にいい事だと思う。本当にやりたい人がやっているので、実際学校内にいわゆる年功序列というものの影は伺われない。主任たちの年齢は非常に若い。そして自分は教科だけきちんと教えていたい、その他のことはやりたくない、という年配の教師も、役職など無くても尊敬されている。

③のこれら仕事に対しての金額と時間数の割り当てについての話し合いは、4年間今の学校に居て1度しかその機会は無かったので、どの学校もしているという訳ではなく、今の校長の気まぐれかもしれないが、職員会でいきなりスクリーンに各種主任の手当金額と軽減時間数が表になってはっきり映し出されたときには、何度もくどいようですが目が点になりました。そして何が起こるのだろうと思っていたら、5,6人のグループに分かれて、今の金額と時間数が適当であるかどうかみんなで話し合い始め、それぞれのグループで意見をまとめ、提出するという訳です。ただし、全体の予算と時間数は決まっているので、この仕事に対してこの金額で少ないと思えば、どこかを減らさなければならないという方法ではあるが、現場に居てよく事情を知っている者がその仕事の労力を計るという意味では、上から決められるより、ずっとフェア。そして何より、校長がうまいなあ、と思うのは、自分たちで決めたのだからそう易々と文句が言えない、という点です。

私はオーストラリア大好き人間でここにやって来た訳ではなく、たまたま他力的事情でここに来てしまっただけなので、日本も大好きですが、ことこの学校のシステムについては、なかなかいいじゃん、と思っています。

追記 私が日本で教員として仕事をしていたのは6年以上前のことになるし、一部地方の学校システムのことしか知らないので、今は随分変わっているかも知れないので、新しい情報があったらぜひ教えてください。

riesekiguchi@hotmail.com まで。

 

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