Yukari Shuppan
オーストラリア文化一般情報

2002年~2008年にユーカリのウェブサイトに掲載された記事を項目別に収録。
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ドリームタイム(20) 最終回

現代のアボリジニー

                                                                       Valeria Nemes     訳 前田晶子

ドリームタイムの最終回ですので、今月は今のオーストラリアの社会の中でアボリジニーがおかれている状況についてお話ししたいと思います。

今一度、先月号のクレンディネンの書いた本の中のお話に戻って見ましょう。砂浜で逃げそびれて、フランス人の調査の対象にされてしまったアボリジニーの女はその後どうなったのでしょう? 実際のところ、私達にはわかりません。しかし、クレンディネンはアボリジニーの視点から続きを想像してみました。
他のアボリジニー達は、多分茂みの陰から、女が今まで見たこともないような服を来た肌の白い見知らぬ男に触られたのを見ていたに違いありません。女は病気をもらってしまったか、何か悪い魔法をかけられてしまったと思ってしまったことでしょう。そして、女を殺してしまうか、部族から追い出すことに決めたでしょう。厳しい環境に一人放り出されることは、死を意味します。ましてや女は身ごもっていたのでなおさらです。
クレンディネンは調査隊が女に残していった贈り物、ナイフ、ビーズ、鏡についても言及しています。ヨーロッパ人が、この贈り物を彼らがその生活状況を知りもしない、または想像さえもできない人々にとって価値がある物と思ったことは何とばからしく、悲しいことなのでしょうと。

ここで歴史をふり返ってみますと、白人オーストラリアの社会の中でアボリジニーは、殺戮、投獄、失われた世代(無理やりアボリジニーの家族から子供を取り上げてしまって、白人の中で教育しようとした政策)などの悲惨な出来事によって、不当な扱いを受けてきました。しかし、同時に多くの一般市民、政府機関がこの大問題に真剣に取り組んで努力していたことも認めなければなりません。

今ではアボリジニー問題はすべて明らかにされて認識されはしましたが、残念ながら解決には至っていません。問題は、健康、教育、社会的地位、文化喪失など、たくさんあります。
アボリジニーは長い世代にわたって、私達とは異なる食生態を続けてきたので、現代の私達の食事に対応ができません。その結果、糖尿病、肥満が問題になっています。白人が持ち込んだアルコールによる中毒も失業問題とからんで大きな問題です。アボリジニーの若者達の刑務所生活も、多くの自殺者を出しています。大きな共同体(部族)の中での生活に慣れた人々は、独房監禁に適応できず、生きることができません。アルコール依存症や麻薬(ガソリンを吸うことが多い。)問題は、文化喪失、自己管理能力の損失に起因しています。
彼らは伝統的な共同体組織をなくしています。彼らの毎日の生活や儀式の基盤として、常に存在していた部族の規律はもはやありません。かと言って、彼らが現代社会に加わりたいと思っても、教育と社会構造の基礎的な認識が欠けているので無理なのは、彼ら自身も分かっています。スポーツ、政治、芸術界ではほんのわずかですが例外もあります。ですが、彼らが現代社会に適応できることはまれで、彼らの努力や能力が正当に評価されて恩恵を受けているとは言えません。ほとんどのアボリジニーはオーストラリアの基準からはほど遠い生活をしているのが現状です。

(いつの時代にも、初めて古代文明が近代文明に接した場合、古代文明に不利になってしまうことは悲しいことです。私達にできることは、アボリジニー問題をいつも心に留めておいて、良い解決策が見つかって彼らが自分達の文化を保ちながら21世紀の近代社会に溶け込める日が来ることを願っていることだと思います。)

ドリームタイム最後のお話として、生命の始まり(誕生)と終わり(死)についてお話しします。最初のお話は、人の誕生について、そして誕生をとおしてアボリジニーがいかに土地と動物に結びついてきたかお分かり頂けると思います。次に、オーストラリア大陸の北、アーネムランド地方のお葬式についてお話しします。

子供はどこから来るの?

お話に入る前に大事なことを説明しておきます。アボリジニーは先祖の霊が旅をしながら、丘、湖などの自然物を造形し、さらにいくつかのトーテム センターも作ったと信じています。子供が生まれる時は、どれかのトーテム センターのそばで、先祖の霊から女に子供の霊が与えられたからと信じています。(現代科学が、地球上の最初の生命は水の中から生まれたと教えるように、すべての誕生のお話は水に関係していることは興味深いことです。)

レインボースネークは湧き水のそばに場所を作り、小石をたくさん置き、こう言いました。「乾いた所に置かれた石は、私の男の子を宿している。女の子は私といっしょに水の中にいる。」レインボースネークは水のそばの違う場所にも小石を次々と置き、子供の霊、ディンゴの子供の霊、カメの子供の霊、ガンの子供の霊を宿していきました。
男が妻を連れてやってきました。レインボースネークは水の中にいた子供の霊を妻の体に送り込みました。女の子が生まれました。男は言いました。「何とかわいい子だろう。レインボースネークが水の中から寄こしてくれた。」
また違う場所で若者がガンをやりで突いて、家に持って帰りました。ガンの中にいた子供の霊は、母親の中に入りました。女の子が生まれました。でも、兄がガンをやりで突いていたので、女の子は腕が片輪で生まれてきました。

アーネムランド地方のお葬式

病気で人が死ぬと、死者の霊が肉体を去って元来た霊の場所に確かに戻れるように長い期間をかけて儀式が行われます。死体は土に埋葬されるか、お棺に入れられて木の台の上に置かれます。3ヶ月経つと家族の所に戻され、きれいに骨だけにされます。骨はペーパーバークという木(オーストラリアの木で薄い紙状の皮で幹がおおわれている。)の皮で包まれて、木の枝別れの所に置かれます。見張り番の男がいて、3ヶ月間守ります。3ヶ月経つと、使者のトーテムを描いたペーパーバークの入れ物に入れられます。そして母親または一番近い親族の女の人が骨の入った入れ物を受け取り、3ヶ月間持ち歩きます。その後骨は、入れ物から出され、絵が描かれた木のほらに収められます。こうして9ヶ月かけて最後には死者の霊は子供として生まれてきたトーテム センターに帰ります。

なぜアボリジニーが先祖の骨をイギリスやオーストラリアの博物館から取り戻そうと、彼らの権利を主張して戦っているかお分かりでしょう。

 
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